東京高等裁判所 昭和40年(ラ)685号 決定 1967年8月07日
抗告人 新井治夫(仮名)
相手方 新井節子(仮名)
主文
本件抗告を却下する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
本件抗告事件は、つぎのとおりである。
抗告人と相手方は、昭和三四年五月一五日婚姻した夫婦であるところ、相手方は抗告人に対し、昭和四〇年七月一六日東京家庭裁判所八王子支部に「同居並に婚姻費用請求」と題する審判を申立てた。同裁判所は、これを同居請求審判事件(家第一三七〇号)、婚姻費用分担審判事件(家第一七五三号)として受理し、前者につき同年九月一四日、後者につき同月二八日いづれも職権をもつて調停に付し(前者は家イ第四〇八号、後者は家イ第四六一号)、調停終了に至るまで審判手続を中止した。相手方は、同年一一月八日「審判前の処分の申立」と題し、抗告人がその勤務先から支払を受ける給与を相手方において取得しうる旨の処分を求めたところ、同裁判所は、同年一二月三日付「審判」と題する別紙第一記載の決定をした。抗告人は、同月一三日当裁判所に対し、右決定を取消す旨の抗告を申立てた(当裁判所昭和四〇年(ラ)第六八五号)。右抗告の理由は別紙第二および第三のとおりであるが、前記決定に対し抗告を申立てうる根拠は、家事審判法第一四条、家事審判規則第五〇条、第五一条にもとづいて即時抗告をすることができる、というのである。
よつて判断する。記録によれば、抗告人が昭和四〇年七月一六日東京家庭裁判所八王子支部になした申立は、家事審判法第九条第一項乙類一にもとづくものであつて、同裁判所のした別紙第一の決定は、家事審判規則第四五条、第四六条、第九五条一項を準用してした夫婦間の協力扶助に関する審判前の臨時処分であると解するのが相当である。家事審判法第一四条は、審判に対しては、最高裁判所の定めるところにより、即時抗告のみをすることができる旨を定めているところ、所論の家事審判規則第五〇条、第五一条により即時抗告をすることができる婚姻費用分担に関する審判とは、婚姻費用の分担を終局的に決定した審判をいうものであつて、前記のような審判前の臨時処分としてした決定は含まないと解するのが相当である。その他右決定に対し即時抗告をすることができる旨の規定はない。右臨時処分は、当該審判事件の係属する家庭裁判所において当事者双方のその時の事情に従い、随時必要な処分をし、その処分を取消しまたは変更することにより、具体的に妥当な結果を得ることを期待した制度であるから(家事審判規則第九五条第二項参照)、性質上抗告による救済に適しないものというべきである。
よつて、本件抗告は不適法であるからこれを却下することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条に従い、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 川添利起 裁判官 坂井芳雄 裁判官 蕪山厳)
別紙(編略)